以上述べてきましたように腐食反応は電気化学反応であり、カソード反応とアノード反応とでの電子のやり取りにより腐食が進むことになります。腐食を抑える(防食)ためにはまずその腐食のメカニズムが何かを知ること、つまり浸漬試験ではどの元素が溶解しているか、分極試験ではどのような反応が起こっているかをしることから始まります。次にその反応を支配しているものを制御していくことにより腐食を防止します。従いまして防食方法は原理的には、カソード、アノード反応の一方または両方を制御する方法といえます。
1.カソード防食法
一般に溶液中でのカソード反応は、水素発生型(4.2式)と酸素消費型(4.6式)に分けられます。
(pHによる防食)
pHの低下とともに水素イオン濃度は増加するので、水素発生型のカソード反応速度も大きくなります。従いまして酸性雰囲気での使用は好ましくありません。中性溶液でも構造上局所的にpHが下がり局部腐食を生じることがあり、環境、構造に対する注意も必要となります。
(溶存酸素量による防食)
酸素消費型のカソード反応では、溶液中の溶存酸素の還元反応が主な反応となります。この反応を抑制するには、酸素濃度を下げる、酸素拡散を抑制する方法が考えられます。前者は科学的薬品により溶存酸素を除去する方法や、煮沸する(温度が上がると酸素溶解量が減少する)方法、後者では溶液の流速を抑え酸素の拡散を防止する等があります。
2.アノード防食法
(電位による防食)
ガルバニック腐食(4.2-2)を生じるような場合では、腐食を防止したい材料の電位を貴に設定する必要があります、この電位は分極曲線(3.2)により求めることができます。小さな電位の差でも相手材との面積比によっては大きな腐食電流が流れることがあり注意が必要となります。
電位を貴な方へシフトする方法としては合金化による方法があり、超硬合金でも結合相金属を合金化する方法などがとられています。
(不働態被膜形成による防食)
金属の溶解では本来の活性を失って貴金属のような特性を示すような現象があります。これは金属が表面に酸化物、水酸化物等の被膜を形成し、表面からの活性溶解を阻止するような現象であり不働態と呼ばれ、この被膜は不働態被膜と呼ばれています。この現象も分極曲線(3.2)により知ることができ、合金設計上重要となります。この技術は鉄鋼材では鋼にNi,Cr等を添加しステンレス鋼とすることでよく知られていますが、超硬合金でも結合相金属をCoからNiにしたり、さらに酸化膜を作りやすいCr、Moを添加する方法や、さらには結合相をTiとする方法がとられています。
(その他の防食法)
焼結硬質材では表面にポアや欠陥があると、そこで隙間腐食が生じたり、表面エネルギーの差により活性化して溶解したりします。充分に緻密化させるために焼結条件の検討やHIP処理による緻密化が重要となります。またカソード、アノード両反応を防止するために表面を完全に被覆してしまうコーティング処理もあります。
また硬質材を使用する側におきましても、例えば研削後は研削液を拭き取る、保管にあたっては湿度の低い場所に保管する、防錆油等を塗布する等環境に対する対策も必要になります。